最終更新日 2024年8月26日
こんにちは、雇用カウンセラーを長年やっているものです。今日は、障がいのある人々の才能を生かすために企業ができる具体的な取り組みについて、お話ししたいと思います。
近年、障がい者雇用への関心が高まる中、多くの企業が障がい者の採用や職場定着に力を入れるようになってきました。しかし、障がい者雇用を単なる法令順守や社会貢献ではなく、企業価値の向上につなげるには、戦略的な取り組みが不可欠です。
私自身、精神障がい者の就労支援に長年携わる中で、障がい者の能力を最大限に発揮できる職場環境づくりの重要性を痛感してきました。企業と連携し、様々な取り組みを実践する中で得た知見をもとに、今回は具体的な方策をご紹介したいと思います。
障がい者雇用に真剣に取り組む企業の姿勢は、社会からの信頼や評価にもつながります。CSR(企業の社会的責任)の観点からも、障がい者の活躍を支援することは重要な意味を持つのです。
それでは、障がい者の才能を存分に生かすための企業の取り組みについて、詳しく見ていきましょう。
目次
障がい者雇用の意義と企業の役割
多様性の尊重と社会的責任
障がい者雇用は、多様性を尊重し、誰もが活躍できる社会を実現するための重要な取り組みです。企業には、様々な背景を持つ人々が能力を発揮できる機会を提供する社会的責任があると言えるでしょう。
実際、多様性の尊重は企業にとってもメリットがあります。多様な視点や発想を取り入れることで、イノベーションの創出や問題解決力の向上が期待できるのです。
米国の調査では、障がい者雇用に積極的な企業は、そうでない企業と比べて株価パフォーマンスが28%高いという結果も出ています(出典:Accenture、2018年)。多様性の尊重が、企業の成長や競争力強化につながることを示唆する興味深いデータと言えるでしょう。
障がい者の能力発揮による企業価値の向上
障がい者雇用を通じて企業価値を高めるには、障がい者の能力を最大限に引き出すことが重要です。NPO法人のあん福祉会によると、障がいの有無に関わらず、一人ひとりの強みを生かせる職場環境を整備することが求められるとのことです。(参考:https://www.hellowork.careers/特定非営利活動法人+あん福祉会関連のハローワーク求人)
私が支援に携わった企業の中には、精神障がいを持つ社員の集中力の高さや、細部へのこだわりを強みとして活用し、業務の質の向上につなげた例があります。職務の切り出し方を工夫することで、障がいの特性を生かした働き方を実現できるのです。
また、障がい者の視点を商品開発やサービス改善に活かすことも重要です。障がい当事者ならではのニーズや気づきを取り入れることで、ユニバーサルデザインの促進や新たな市場の開拓が期待できます。
企業の事例を見ると、ある食品メーカーでは、聴覚障がいを持つ社員の意見を参考に、音が出ないお菓子の開発に成功しました。このように、障がい者の発想を生かすことで、企業の競争力強化につなげることができるのです。
法定雇用率達成に向けた取り組み
障がい者雇用は、単なる企業の善意ではなく、法律で定められた義務でもあります。日本の場合、民間企業の法定雇用率は2.3%(2021年3月時点)。この数値を達成することが、企業にとって重要な責務となっています。
しかし、法定雇用率の達成は容易ではありません。ハローワークなどと連携し、計画的な採用活動を行うことが求められます。また、職場定着を図るための継続的な支援も欠かせません。
私がアドバイスしてきた企業の中には、以下のような取り組みで成果を上げている例があります。
- 障がい者向けの専用求人サイトの活用
- 特例子会社の設立による雇用の創出
- 社内の理解促進のための研修の実施
- 定着支援のための相談窓口の設置
こうした地道な取り組みの積み重ねが、法定雇用率の達成につながっていくのです。
職場環境の整備と合理的配慮の提供
バリアフリー化と施設・設備の改善
障がい者が能力を発揮するには、バリアフリーな職場環境の整備が不可欠です。企業には、施設・設備のバリアフリー化を進め、誰もが働きやすい環境を整える責任があります。
具体的には、以下のような取り組みが考えられます。
- スロープや手すりの設置
- 車椅子対応のトイレやエレベーターの導入
- 視覚障がい者向けの点字ブロックの敷設
- 聴覚障がい者のための非常用警報ランプの設置
こうしたハード面での改善は、障がい者だけでなく、全ての社員の働きやすさにつながります。
ある企業では、バリアフリー化の一環として、社員食堂のメニューに点字表記を導入しました。視覚障がい者の利便性を高めるだけでなく、障がい理解の促進にもつながる取り組みと言えるでしょう。
柔軟な勤務体系の導入
障がい者の中には、通院や体調管理のために、柔軟な勤務体系を必要とする人もいます。企業には、個々の障がい特性に合わせ、適切な雇用管理を行うことが求められます。
例えば、以下のような勤務制度の導入が考えられます。
- フレックスタイム制の適用
- 短時間勤務やシフト調整
- 在宅勤務やテレワークの活用
- 時間単位の年次有給休暇の取得
精神障がいを持つ社員の中には、通院のために週に1日の休みが必要な人もいます。そうした場合、短時間勤務制度を活用し、無理のない働き方を実現することが大切です。
柔軟な勤務体系は、障がい者の雇用継続を支える重要な基盤となります。企業には、社員の事情に寄り添い、個別の状況に応じた対応を行うことが求められるのです。
ジョブコーチや支援者との連携
障がい者の職場定着を図るには、専門家の支援を得ることも有効です。ジョブコーチなどの職業リハビリテーション専門家と連携し、障がい特性に応じた個別支援を行うことが重要となります。
ジョブコーチは、以下のような支援を行います。
- 職務内容の分析と作業手順の細分化
- 社員への業務指導や相談対応
- 上司や同僚との関係調整
- 定着状況のフォローアップ
ジョブコーチの支援を受けることで、障がい者の業務遂行力を高め、職場への適応を円滑にすることができます。
私が関わったケースでは、精神障がいを持つ社員の職場適応に、ジョブコーチの支援が大きな効果を発揮しました。ジョブコーチが定期的に職場を訪問し、社員の状況を把握。ストレス管理の方法を助言したり、上司との面談の場を設けたりすることで、安定した就労につなげることができたのです。
企業とジョブコーチが連携し、障がい者一人ひとりに寄り添った支援を行うことが、職場定着の鍵を握ると言えるでしょう。
障がい者の能力開発と活躍の場の創出
個々の特性に合わせた職務の再設計
障がい者の能力を最大限に発揮してもらうには、個々の特性に合わせて職務を再設計することが重要です。障がいの種類や程度、本人の適性などを考慮し、最適な職務を割り当てることが求められます。
職務再設計の際には、以下のような点に留意することが大切です。
- 本人の強みや専門性を生かせる職務の切り出し
- 作業手順の明確化とマニュアル化
- 必要な補助具や支援機器の導入
- 業務量や進捗状況の適切な管理
例えば、発達障がいを持つ社員の中には、一定の手順に沿って行う単純作業に高い能力を発揮する人もいます。そうした場合、業務の細分化を進め、本人の得意分野を中心とした職務を設計することが有効です。
職務再設計は、障がい者の活躍の場を広げるための重要なステップ。企業には、一人ひとりの可能性を引き出す創意工夫が求められます。
教育・研修プログラムの充実
障がい者の能力開発を支援するには、教育・研修プログラムの充実も欠かせません。障がい特性に配慮した研修を行い、必要なスキルや知識を身につけてもらうことが重要です。
具体的には、以下のようなプログラムが考えられます。
- 障がい理解や啓発のための研修
- コミュニケーションスキルやマナー研修
- 職務に必要な専門スキルの習得支援
- メンタルヘルス研修やストレス管理プログラム
特に、精神障がいを持つ社員の場合、ストレスマネジメントやセルフケアの方法を学ぶことが大切です。企業には、そうしたスキルを身につけるための機会を提供することが求められます。
ある企業では、聴覚障がいを持つ社員向けの手話研修を実施しています。聞こえる社員も一緒に学ぶことで、社内のコミュニケーションを円滑にするとともに、障がい理解の促進にもつなげているのだそうです。
教育・研修を通じて、障がい者の能力を高めていくことが、活躍の場の拡大につながるのです。
キャリアアップの機会の提供
障がい者の活躍を支えるには、キャリアアップの機会を提供することも重要です。能力や意欲に応じて、高度な職務や責任ある立場に就く道を開くことが求められます。
具体的には、以下のような取り組みが考えられます。
- 人事評価制度の整備と公正な運用
- 昇進・昇格の基準の明確化
- リーダー養成研修の実施
- 社内公募制度の活用
障がいの有無に関わらず、能力を発揮できる人材を適材適所で登用する。そうした企業風土を醸成することが、障がい者の活躍を後押しすることにつながります。
私が関わったケースでは、身体障がいを持つ社員が、管理職に抜擢された例があります。本人の仕事ぶりが高く評価され、リーダーシップを発揮する機会が与えられたのです。こうした登用のチャンスを設けることは、障がい者の意欲やエンゲージメントを高める上で非常に重要だと言えるでしょう。
企業には、障がい者のキャリア形成を支え、活躍の場を広げていく姿勢が求められています。
まとめ
障がい者雇用は、企業にとって重要な社会的責任であり、多様性を尊重する組織文化を築く上でも欠かせない取り組みです。単なる法令順守ではなく、障がい者の能力を存分に発揮できる環境を整備し、企業価値の向上につなげていくことが求められます。
そのためには、バリアフリー化や柔軟な勤務体系の導入など、職場環境の整備が不可欠。加えて、ジョブコーチなどの専門家と連携し、個々の障がい特性に応じた支援を行うことも重要です。
さらに、教育・研修プログラムの充実やキャリアアップの機会の提供など、障がい者の能力開発を積極的に支援することも欠かせません。障がいの有無に関わらず、多様な人材が活躍できる組織を目指すことが、企業の成長と発展につながるのです。
障がい者雇用に真剣に取り組む企業の姿勢は、社会からの信頼や評価にもつながります。CSRの観点からも、障がい者の活躍を支援することは重要な意味を持つと言えるでしょう。